岐阜~愛知 焼きものツアー

岐阜県の多治見市、愛知県の瀬戸市と言えば……そう、焼きものの街。
今回は、岐阜県現代陶芸美術館、多治見市美濃焼ミュージアム、愛知県陶磁美術館の3館を同時にご紹介します。

【岐阜県現代陶芸美術館】

多治見の高台に佇む、堂々たる建造物。こちらは磯崎新建築の「セラミックパークMINO」の中核拠点「岐阜県現代陶芸美術館」です。貫録たっぷりの外観ですね。

 

受付前で華々しくお出迎えしてくれるのは、アレクサンドル・ロトチェンコのデザインによるティーセット。
こちらのミュージアムでは、2002年の「ロシア・アヴァンギャルドの陶芸」という企画展をきっかけに、ロトチェンコのデザインを再現する「ロトチェンコ・ルーム・プロジェクト」が始動したのだそうです。

ロシア・アヴァンギャルド全盛期の1922年に生まれたこちらのデザインは、なんとその複雑さゆえに、当時は制作にまでは至らなかったのだとか。複数の企業の協力を仰ぎながら、ようやく完成に辿り着いたのは、実に約80年後の2003年! 人の想いと技術の進歩が、先達の意匠をかたちにしたのですね。

 

実際に様々な器を見比べてみると、そのいずれもが文化や生活を体現しているように思えてくるのが面白いところ。たとえば、ティーセットなら、「賑々しい5脚セットなのか、それともシンプルな2脚セットなのか」によって、想起できる家族構成や実用シーンが異なります。こうした「気づき」は、時代や種類を比較してみなければ得られない、美術館ならではの体験です。

こちらのコレクション展は3月25日まで開催中。現在では話題の展覧会「コレクション×キュレーター -7人の学芸員が紹介するコレクションの魅力」も始まりましたので、ぜひあわせてご覧くださいね!

ちなみに、今回の展覧会で見かけた個人的なお勧め作品は、MAPPS Gateway上でも検索できます。よろしければ「マルコ・ムメンターラー」というキーワードで検索してみてください。

 

【多治見市美濃焼ミュージアム】

続いては、岐阜県現代陶芸美術館から徒歩圏内にある「多治見市美濃焼ミュージアム」です。
複数の企画展・常設展からショップまで、美濃焼を中心とした日本東洋の陶磁器の魅力がぎっしり詰まっていましたよ。

 

展示室では写真が撮れませんので、かわりにパンフレットをご紹介

この日の企画展「永久の世界」には、すっかり魅了されてしまいました。

皆さんは、「明器」という中国の副葬品をご存知でしょうか? 古代中国では、亡くなった方が死後の世界でもしっかり生活できるように、生活必需品をミニチュアにした焼きものを、遺骸と一緒に埋葬する風習があったのだそうです。 今回は、その古代中国の「明器」を幾つも拝むことができたのですが……。

窯や家屋や木に始まり、鳥や犬などの動物たち、どこか牧歌的な様子の人々、果ては銭箱まで。何とにぎやかなミニチュアたちなのでしょう! これまではどことなく「死は暗くて寂しい、悲しいもの」と思ってきましたが、そんな死生観がひっくり返りそうになりました。

こちらの企画展は、4月22日まで開催中です。お近くの方は、ぜひ足をお運びくださいね。

 

多治見市美濃焼ミュージアムの中庭

さて、魅力は展示だけではありません。館内のお茶室では、人間国宝の作陶した茶碗などでお抹茶を味わうこともできるんです。お菓子付きで500円。器の価値を考えると、何ともお得な気分です。
今回は残念ながら体験できませんでしたが、たとえば白釉が厚くかけられた志野のお茶碗で、上質な癒しのひとときを堪能したいものです。次回こそは、きっと!

 

【愛知県陶磁美術館】

ちょっとしたピクニックも兼ねてしまえる雄大な敷地を備えたこちらの美術館は、愛知県瀬戸市にある「愛知県陶磁美術館」です。庭内にぽつぽつと見える陶器が、なんともかわいらしいですね。

 

この日のテーマ展示「京都市陶磁器試験場の釉薬研究と小森忍―寄贈・堀田毅コレクションを中心に―」では、釉薬研究者・小森忍の業績を学ぶことができました。

かなり専門的な展示内容ではありますが、たとえば大正天皇の御大典に献上された「青磁耳付花瓶」などは、釉薬に詳しくない私でも思わずウットリしてしまうほどの鮮やかな青! なんでも、釉薬の使用のみならず、素地にも邑色材を混ぜ込むことで、従来とは異なった色の出し方をしたのだそうです。

日本人として初めて中国各地の窯場を本格的に調査したという小森。溢れる情熱と高度な知見には、後輩にあたる陶芸家・濱田庄司も唸りっぱなしだったようですが、そのエピソードがあまりにマニアックなので、思わず笑ってしまいました。
天才というよりは超人的釉薬オタクといった印象でしょうか。好きこそものの上手なれ…ですよね。

 

こちらは、焼き物ファンにとっては垂涎ものの常設展示室。写真のような展示ケースが何十台も(もしかしたら百台以上?)置いてあって、それはもう壮観です!

各展示室では、日本の多種多様な陶磁器の詳細な歴史はもちろん、世界各国の陶磁まで網羅的に扱っています。それにしても圧倒的な量です、1年くらいここで暮らしたいです(笑)。

 

あっ、古代中国の「明器」を見つけました。多治見市美濃焼ミュージアムの企画展で見て来たものとよく似ています。家畜たちに動的な表情があり、キュートなんですよね。

 

というわけで、「岐阜~愛知 焼きものツアー」を、駆け足でご紹介しました。ひとつのテーマで複数の館をまわると、視野が広がって、多角的に知識が深まっていくのが嬉しいところです。

また、今回ご紹介したミュージアムでは、いずれも個性的な器を豊富に取り扱うショップがあることもポイント。もし食器などを新調したいのであれば、積極的に回ってみるのがおすすめです。気軽に入れますし、お値段もお手頃なものから揃っているようでしたので、焼き物の入門者の方でも大丈夫ですよ!

目の保養として、知の愉しみとして、そして日常のパートナーとして。素敵な器との出会い、皆さんもぜひお楽しみくださいね。

●岐阜県現代陶芸美術館
http://www.cpm-gifu.jp/museum/01.top/index1.html
「お茶の時間」
2017.11.11-2018.3.25

●多治見市美濃焼ミュージアム
http://www.tajimi-bunka.or.jp/minoyaki_museum/
「永久の世界」
2018.1.19-4.22

●愛知県陶磁美術館
https://www.pref.aichi.jp/touji/
「京都市陶磁器試験場の釉薬研究と小森忍―寄贈・堀田毅コレクションを中心に―」
2018.1.20-3.21